彩縫箱

くまプーとシナモンがかわいくてたまらない。

『not simple (IKKIコミックス) 』

私の趣味嗜好をご存じの方はおわかりかと思うんですが

私は暗い話とか不幸な話とかあんまり読んだり観たりしないんですよね。

特にラストがアンハッピーなのは、もう…!

え、い、いままで観てきたのにラストがこれじゃあ救われないじゃん!って。


こう、すがすがしい気持ちで本を閉じたり映画館を出たりしたいんです。


現実はそんなに甘くない!とは重々承知。
でも創作だからこそ明るくいってほしいというか。


それに、考え方やら生き方次第で現実はいくらでもプラスに持っていけるんですよね。

むしろ創作物は観てる側ではどうしようもない部分が割とあって。
どうしようもない結末だったりすると、あ"〜!って。

しかもお金払って暗い気持ちになりたくないし。



まぁ私はそんな感じなんですが、
この本は、そんな私が読むには珍しく、めっちゃ暗くてどうしようもない話でした。

知らずに読んだんですが。
でも読んだ後でも、なんか、不思議と、落ち着いてる感じです。

多分にこの画がクッションになっているのかなと。
あと話の順番が工夫されてるし。


この作品って、ほんと「漫画」で。よいなーと思う。

漫画だから、画で語れる部分は画を最大限活用してるし
言葉が必要な部分は言葉を厳選して無駄なく効果的に活用してるし。



話としては、「運もツキもない男の話」。
しかもなさが半端ない…
宝くじが当たらないとか財布落としたとかなかなか出世できないとかそういうのとはなんか別次元じゃないかというところの運のなさツキのなさ。

だから運とかツキともちょっと違う感じもします。
といって転落していくとかでもなく。

なんかほんとあ゛あ゛あ゛あ゛〜って感じで。

それなのに読後は不思議とすーっとしているという。もちろんやりきれなさはあるんですが。


この独特の読後感はやはり最後にもってきた話の影響もあるようですね…ほかの方が書かれてました。


あと、個人的には、作中の人だけでなく読んでる側もこの「男」に救われてるのかな、と。
自然体というか透明さというか。
恨み辛みを言わないんですよ…といって聖人君子然としているわけでもないので余計こう胸に迫るという。
辛さをはいたのは
「本当に感じたいのは、もっと近くにいる人たちからのぬくもりなのに」

って言ったところくらいじゃないでしょうか。
そういう姿に読んでる側が救われてる気が。
そう思うとほんとこの「男」に対するやりきれなさがさらに増すわけですが。



でも「小説家」もいろいろとやりきれないし
てかなんかみんな結構やりきれないし。


うんん〜でもなぁ。近くには家族じゃなくてもあったかい人がいたわけで。そこに幸せを見出してもよかったんじゃなかろうかと思うんですが。やっぱり家族を求めちゃうのかなぁ。まぁ、理屈じゃないし、愛情とかって。
そうしようとしてできるもんでもないんだろうけど。

幸せになれるから動くってより、
求めずにはいられない動かずにはいられない、その先にはきっと幸せがある、って信じてる
って感じの生き方というか。


でも歌詞にもあるように
「大事な人ほどすぐそばにいる」わけで。

けどやっぱり、理屈でなくて。
手に届くところにあるのに手を伸ばせない。伸ばさない。というか気づいてない。

その時点でやっぱり、理屈では幸せになれる場所だとしても、「男」はここに、今いる場所に幸せを見いだせない。

このどうしようもない感じがまたやりきれないっす。

一人の身の上に起こるにはすごい話ですが、ひとつひとつは本当にあり得る話なんですよね。
だからリアリティがあるというか世界に入りやすいというか。

現代社会の歪みを「男」は一気にあびせられてるようで、なんとも考えされられます…。




そんな感じのやりきれなさ全開の。
重すぎる話の内容に比べて、読後感は重たくない。もたれない。
んーと。
重くてすずやかという、稀有な作品。